最高裁判所第二小法廷 昭和39年(行ツ)36号 判決 1965年4月16日
上告人
尾関孝
上告人
尾関雪
右両名代理人
佐山武夫
被上告人
福岡県知事
鵜崎多一
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人らの負担とする。
理由
上告代理人佐山武夫の上告理由第一点について。
論旨は、本件許可処分の取消を違法でないとした原審の判断に採証法則違背がある、という。
しかし、原審の所論判断は、その挙示の証拠に照らして首肯することができ、その過程に所論の違法あるを見い出し得ない。論旨は、所詮、原審の専権に属する証拠の取捨選択、事実の認定を非難するに過ぎないものであつて、採用の限りでない。
同第二点について。
論旨は、要するに、本件許可処分のうち蓮輪一、〇九五番地の一の農地に関する部分は、同土地の所有者たる訴外井上ヒトヱと上告人らとの間で、さきになされた売買予約を合意解除しあらためて売買契約を締結したことによつて、当然失効するにいたつたものであるのに、原判決が右許可処分の取消を違法でないと認めたことが、法令および判例に違反する、という。
農地法五条の規定に基づく知事の許可は、当事者の申請に基づく行為であるから、申請の無効または撤回等によつて許可も失効することはいうまでもない。しかし、右の許可は、農地を農地以外のものに転用するため当該土地についての所有権の移転または地上権、賃借権等の設定を許可する公法行為であつて、もとより個々の売買、賃貸借等の私法上の行為を許可するものではないのであるから、後にいたりこれら私法上の行為が取り消しまたは解除されることがあつても、それにより、許可は当然その効力を失うものでないと解すべきである。
また許可の条件が不成就に確定しその許可処分の効力を生じ得ないこととなつた場合といえども、その取消が不可能になるものではないところ、原判決の確定事実によれば、本件許可処分は昭和二九年六月二八日「道路用地として使用すること」を条件として与えられたものであるが、昭和三一年四月二六日右条件が不成就に確定したというのであるから、本件許可処分の取消は、右条件が不成就に確定したことにより同処分がその効力を失なうにいたつたことを確認するために行なわれたものであつて、違法ではないといわざるを得ない。
それ故、論旨は、理由がない。
同第三点および第四点について。
論旨は、本件土地について地目変更登記がなされた以上、条件違反等の理由によつて本件許可処分を取り消すことは許されない、という。
しかし、農地法五条の規定に基づく知事の許可は、当該農地につき、単に地目変更の登記がなされたという一事によつて、爾後その取消が不可能になるわけではない。
論旨は、また、原判決には上告人らの所論主張を曲解して上告人らに不利益な判断を下した違法があるというが、記録を精査しても、原判決に所論の違法あるを見い出し得ない。
されば、論旨は、すべて理由がない。
同第五点について。
論旨は、原審において主張しなかつた新たな事実に基づいて原判決の違法をいうに過ぎないものであつて、上告適法の理由は認められない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。(奥野健一 山田作之助 草鹿浅之介 城戸芳彦 石田和外)